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彼方遠くの星よりも Intro +サンプル (R-18)

小さな頃、天に広がる星を掴むのが好きだった。 もちろん実際に掴める訳ではない。手を伸ばして、遙か遠くの空めがけて拳を握るだけだ。 それでも、無数に瞬く星の一つを手に入れたような気がして、わくわくした。 子供の頃の好きだったことは悪癖として残...
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彼方遠くの星よりも 設定紹介

※大してSF知識のない人間が勢いで書いているシリーズなので、考証などは気にせずお読み頂けますと幸いです Introduction 西暦2300年代に地球外惑星へ居住を移し、暦をマルグリット暦へと改めてから250年余りが経過した星々の世界――...
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ナイフとフォークよりもはやく (R-18)

「帰ったよ」  廊下からリビングに出ても、普段の通りくつろぐ吸血鬼の姿はなかった。 今日は土曜日。もう日が沈んでしばらくが経つから、教義の上では安息日だ。であるからこそ今日はなにもせず、どこにも出かけず、ゆっくりすごそうと思っていたのだが、...
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いつか朽ちてしまうまで

(「ぼくのルヴナン」同人誌版より10年ほど後)  ◆   戸を開けると、一人の男が言葉もなく突っ立っていた。 ふわふわのプラチナブロンドと、眠たげな青の瞳が特徴的な男である。見た感じ、成人してしばらくが――十年以上が経っているようであったが...
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足りない我らは

(「ぼくのルヴナン」より時間軸を遡っています)  ◆  切り揃えられたブラウンの髪が食堂のテーブルに広がっている。 「エレーヌ」  広がった髪がたわんで、白く美しい額の辺りだけが見えた。 「エレーヌはこの仕事が嫌になったりしないの」  変声...
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影と光 (R-18/G)

※猟奇的な表現を含みます

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étincelle

 会員制クラブ「プライベート・ブラッド」は吸血鬼に会うことの出来るクラブである。 その全てが吸血鬼な訳ではない。ギャルソンや下男などは普通の、いわゆる人間である。だが、会員へ接客をし、酒を酌み交わすのは吸血鬼であった。 ロジェは、パリにあるSang Privé――「プライベート・ブラッド」を取り仕切る少年である。 人間と吸血
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仮初めの生を受くる者

 エレーヌはクラブ・プライベート・ブラッドの住人である。 一部の例外を除いて、吸血鬼たちの集うプライベート・ブラッドにおいて、その住人であるということは、吸血鬼であるということを意味する。 エレーヌもその例に違わず、吸血鬼である。 それも、エレーヌはその中でも一部に割り振られる、「夜」の仕事を請け負っている吸血鬼であった。

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黒のオニキス

 休日の夜、ぼくとシリルは、プライベート・ブラッドの前にいた。 吸血鬼と契約した後もクラブで他の吸血鬼と戯れる人間もいるらしいが、一人きりだった時ですらろくに吸血鬼と話すことが出来なかったぼくに、そんな器用なことが出来るはずもない。 ただ、ロジェ――このクラブを取り仕切っているらしい少年が、言ったのだ。

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オットー家の娘

「お嬢様」  私の一日は、優しい声で始まる。 「ドロテアお嬢様、お目覚めのお時間ですよ」