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月色の毛先

行為の後、ぼくの荒い息に揺らされて、目の前でふわふわと髪が踊っている。その毛先をひと摘みして、ぼくは胸にくったりと背を預けてくるシリルへと声をかけた。 「シリルきみ、髪が伸びたんじゃないか」「ん……?」  ぼくの胸から肩にかけて体をもたれか...
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或る夜に

ある休日の夜のことである。ぼくたち――ぼくとシリルは、久しぶりにクラブ「プライベート・ブラッド」にいた。 クラブ自体に赴くのは、別に久方ぶりのことではない。増血剤や止血の道具を買いに来ることだってある。だが、そういう時は二階にある応接間のよ...
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きずあとのリング

夢を見ていた。 儚く、脆く、そのくせいやに現実的な夢。 否――夢と言うより、これは過去の焼き直しだ。 「よ……『宵闇にこそ真実が宿る』……」「ありがとうございます。会員証も確認いたしました。……ムッシュ・ドゥブレ、ようこそこのクラブへ」  ...
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カウントダウン

クウヤがバスルームを出ると、キッチンでシグが何事かしているのが見えた。 髪の毛先から滴る水分をタオルに吸い取らせながら、彼へと近づく。手元を覗き込むと、先日乞われて買ってやった大きめのボウルに入った薄い黄色のなにかを、へらでゆっくりとかき混...
Stories of companion star

She doesn’t know

男女 / とある研究所の研究員と実験体ギフテッドのクリスマスの話
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また夜に

「おはよう、シグ」  起きる時間が経ってから数分、のそのそとリビングへ姿を現したシグのマスター・クウヤは、いかにも眠そうな様子でキッチンの向かいに据えられたカウンターテーブルへの席についた。 身支度こそ終わっているが、それだけは済ませたと言...
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グッドナイト、マイボーイ

ベッドに潜り込み、AIにおやすみと声をかけて照明を落とそうとした、その時であった。 「……マスター」  部屋の外から、クウヤを呼ぶ声がした。シグの声だ。 声はごく控えめなもので、シグの性格からして、恐らく反応が遅れたらすぐさま引き返してしま...
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微笑むわけは

「職場に置きっぱなしにしてるモバイルがあるんだが」  仕事帰り、オート・タクシーに乗るなり、マスターであるクウヤ・アマサキはおもむろに口を開いた。 「……はい」  話の先が見えないことには、なにも問いかけられない。相槌を打つと、着ている立て...
Stories of companion star

てのひらのエデン (R-18)

アルブレヒト×レチカ / 何度目かの「初めて」の話
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吐息はシュガーミルク (R-18)

照明を絞った自室の中で、白い体がほんのりとオレンジ色の影を落として身を捩らせている。 狭い肩が竦められたかと思うと、細い腕が後ろから自身を抱くシグの腕を掴んだ。 だが、その力はごく弱い。抵抗していると言うよりも、縋りついているようであった。...