SS Logs 1

お気に召すまま

「……シリル」

 首の付け根に手が回る。くいと引き寄せられて、口づけられる。のしかかられて、体重をかけられた体はベッドに倒される。
 そうして自分を押し倒したケイは、なんとも言えない表情を浮かべた。
 眉尻は下がって、視線は泳いでいる。はて、と思いながらその襟元に手をかけ、ボタンを外そうとすると、細い手が手首を掴んだ。

「どうかした?」
「……いや、なんでもない」

 なんでもない、と言いながら、手は手首に触れたままだ。伸び上がって再び唇を触れ合わせると、彼は言いづらそうに口を開いた。

「なんだか緊張してしまって」
「どうして」
「……きみが」

 見つめられたかと思うと、再びふい、と視線が外される。

「ぼくを愛しているのかと思ったら、緊張して」
「なに、それ」

 起き上がると、ケイはなにも言わずに後ずさりする。外しかけていたボタンを数個外して、胸に手を置くと、そこはばくばくと早鐘を打っていた。
 どうやら、緊張しているのは嘘ではないらしい。

「じゃあ、やめる?」

 問いかけると、彼は長い息を吐いた。落ち着こうとしているのだろう。

「……やめない。続けても?」
「うん」

 ぎし、とケイの膝がベッドに沈む。続けると言ったくせに、首筋に降りた唇まで震えていた。
 なだめるように、首に回した手でうなじの辺りを撫でる。
 きっと彼が昔に抱いた「妻」とて、彼のことを愛していたに違いない。それなのに、今更他人の愛を自覚して緊張するだなんて、彼らしいと言えば彼らしい。

「ケイ、いいよ。……好きにして」

 囁けば、安堵したように表情が和らいだ。
 自分に出来ることは、きっとこうして静かに名を呼んで、全てを許してやることくらいだ。